I'm a Pharmacist!

薬剤師のストーリー

人生において大事なものは人それぞれ。
いろんな想いで、いろんな考えをもって、いろんな人が働いています。
大分で働く素敵な薬剤師を紹介していきます。

在宅医療への想い

児玉 淳
薬剤師歴 15年


在宅医療への道へ

 

実は、薬学の道ではない他の学部を志望していたんですけれど、私の祖父が薬局をしており、父が問屋で勤めていた関係もあって、最終的に私も薬学部に進学しました。

言い方はともかくですが、大学在学中から薬局は「医療機関の金魚のフン」といったような位置づけのイメージが強くて、「薬局独自で何かできないかな」と思っていました。

これから超高齢化社会を迎えるにあたって、薬局は患者さんに対して何ができるのか。

「単に薬を届けるのではなくて、『安心を届ける』『安全な治療を届ける』といったようなサービスが出来ないか」とイメージを抱いていました。

薬局に入社して社長といろいろ話をしている中で、私の考えを理解してくれて「じゃあ、在宅をやろうか」と話が進んで、入社して5年目くらいから在宅をスタートすることになりました。

とはいえ、簡単に始められるものではないのですが、たまたま「やまおか在宅クリニック」が在宅専門クリニックとして開業する話を受けて在宅医療に関わり始めました。

在宅医療に携わり本当の意味で、「患者さんの役に立っているという感覚は在宅医療の方が強い」というのが率直な感想です。

そして一番課題は、保険で収入を得ているような(医療)業界は、やったことを実績として文書にして残さないといけないので、その負担が恐らく薬剤師さんの一番の仕事量、労力になってしまうことでしょうね。

 

 

施設側と薬剤師の関わり方

例えばお薬に変更があった時、その内容のどこが、いつから変わったかとか。施設の看護師さんたちも、その評価はきっとしたいはずなのです。

ドクターが訪問診療をして「お薬変えとくね」と言ったそれがいつからなのか。指示が出なければ看護師も共有できないし、いつの間にかお薬が変更になっていたりすると看護職として評価ができない。そこで、薬剤師がいつから変更するのか確認を取って、それを看護師さんに情報提供するわけです。ここで3つの点(ドクター・看護師・薬剤師)が輪になるので、その流れを心がけていますね。

看護師さんがいない状況もあるし、タイムラグはどうしても起こってしまうので、紙媒体だけれども連絡帳みたいなものに貼り付けたりして「こういったことに注意してくださいね」といった内容は残すようにしています。

それこそ昔は、「1人1人の患者さんに会わなきゃ」と思っていたけれど、それが果たして患者さんにとってうれしいことかどうか、ですよね。

そう思ってくれる方が良いけれど、血圧測定ひとつにしても、患者さんに負荷をかけますから。訪問したからには「なにかしらのデータが欲しい」というのは薬剤師の自己満足だし、求められればできる体制は整えるけれど、看護師さんに聞けばいいことですし。

今はこんなふうに考えも変わりました。

 

 

在宅患者さんに向き合うこと

これまでたくさんの患者さんに関わってきましたが、パッと思い出すのはターミナルの40代女性のことですね。

乳がん原発で転移をして、大腸がんを患って人口肛門も使っていた方で寝たきりの生活、でも一人暮らし(独居)だったんです。その方と関わった期間は1ヶ月くらいだったけれど、その間、いつもどこか気になってしまうんです。僕らは、ドクターの指示で処方箋を持って動くけれど、心配になるから業務外でも訪問したりしましたね。

末期になって中心静脈とかになると、みんな口が渇いて仕方がなくなる。ただ、イレウスとかがあって飲み込みが大変だから、「どうするか」って話になるんです。

駆け出しの薬剤師だし、どうしたらいいかもわからない中で、「水を飲ませればいい」という単純な話でもないから。そこでいろいろ調べて、クラッシュアイスなら溶けるのもゆっくりだし良いらしくて、夜にお宅へ届けに行ったりしましたね。

患者さんにとって、のどの渇きが一番きつかったようなので「ありがとう」と言ってくれて。

本来、それをしていいのかどうかもわからないけれど、「感謝された時のうれしさの度合いが違う」と初めて感じましたね。

 

在宅医療を志す人へのアドバイス

 

在宅をしたい人は、まず「関わる人に対して敬意を払う」ことと「笑顔で対応する」。それしかないと思いますよ。

人との関わりって、「礼に始まり礼に終わる」ですからね。

会話の始まりに難しい話をしても、相手は多分そこでブロックをする。だから、「会えば笑顔であいさつ。最後は笑顔でさようなら」です。在宅をするのであれば、この部分のコミュニケーション能力が高くないとできないですね。

薬のことだけじゃなくて、日常的な会話をするように心がけてはいます。それが、コミュニケーション能力の高さかと言われたらそれまでだけれど、家族や友達と話すような話をすればいいだけのことですから。

自分が「薬剤師だ」と思わない方がいいかもね。薬剤師も医師も、他のケアマネージャーさんやPT、OTさんもいるけれど、自分たちが持っている職能は当然、肩に乗っているだけ。その職能を使うべき時には使う必要があるけれど、使わなくていい時は一人の人間だからね。そこでは、人と人との関わり方に切り替えればいいと思いますよ。

介護保険が始まったのが2000年で今が2020年(インタビュー時点)。20年経ってもまだ、薬剤師の訪問業務は確立されていないのが現状です。

それを打破していくためには、今学んでいる学生さんにゆだねるしかない気がしています。

ただ今の学生さんたちは、そういったところも含めて学んでいるわけだから。コミュニケーション能力にしても、アセスメントにしても同じこと。これから先20年くらい高齢化社会が続いて、これから薬剤師になる学生さんたちには、『在宅ありきの薬局』というふうに思っていただきながら勉強して、就活してもらえたらいいのではないかと思いますね。

 

 

 

勤務先:きむら薬局上野丘店

2021年2月8日 掲載

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